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こころのしずく

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るろうに剣心 5~6




るろうに剣心小説(短編)目次


蒼紫と操の恋物語。縁との一件後、京都に戻った二人の関係は……。蒼×操(アオミサ)


 緋村と雪代縁との戦いも終わって、私は蒼紫様と葵屋へ戻った。そしてまた、いつも通りの毎日。蒼紫様は、相変わらず禅寺に通っている――

『大好きな蒼紫様へ』(るろうに剣心 5)

「爺やぁ~!!」
 私は、茶の間でのんびりと新聞を読んでいる爺やの胸に飛び込む。
「ん? どうした操」
「蒼紫様が遊んでくれないよぉ~! 毎日毎日禅寺にこもって私と蒼紫様はすれ違いばかり! もう私こんな生活嫌だよぉ~」
 私は、募る不満を一気にぶちまけた。
「蒼紫には蒼紫の思うところがあるのだろう。今はそっとしといてやれ」
「それもう前にも聞いた!」
 私はすかさず突っ込んだ。
「ねぇ爺や……」
 私は改めて、爺やの前に座った。
「私、蒼紫様のところへ行ったらダメかなぁ……」
 すると爺やはしばらく黙って考えて、そして私の肩に手を置いた。
「どうして、そう思うのじゃ」
「うん……」
 私は、一呼吸置く。
「蒼紫様がね、禅寺にこもる気持ちは分かるんだ。でも、もう十分すぎるくらいだから。もういいよって、言ってあげたいの」
「そうか……」
「止めないの爺や」
 爺やは、私を抱きしめた。
「操。成長したのぉ。……蒼紫を頼んだぞ」
「うんっ!」
 そうして私は、その足で葵屋を飛び出した。
 早く蒼紫様に伝えたい。迎えに行きたい。
 蒼紫様が、一日でも早く、笑える日がくるように。

 蒼紫様は、いつものお寺で独り、禅を組んでいた。
「蒼紫様ぁ!」
「操か……」
 蒼紫様は顔を上げる。私は寺には上がらないで、蒼紫様の前に立った。
「どうした……」
「……また、般若君たちのことを考えてたの?」
 蒼紫様は、答えの代わりに、少しうつむく。
 蒼紫様の痛みが、苦しみが、伝わってきた。

「操……」
 気が付いたら、私の目からは、涙がボロボロあふれてた。
「もういいよ蒼紫様……もう十分だよ……!」
 思わず私は蒼紫様にしがみつく。
「般若君たちだって、蒼紫様がこんなに苦しんでるの、喜んでるはずないよ!」
 激しく震える肩がとまらないまま、私は蒼紫様を抱きしめる。
「だが……」
「どうしてもまだその苦しみを抱えるのなら、私も一緒に背負うから! だって蒼紫様が苦しいなら、私も苦しいもん! すっごくすっごく苦しいんだもん!」
「操……」
 私は涙をぬぐって、それでもあとからあふれる涙をもうそのままに、顔を上げて蒼紫様を見つめた。
「蒼紫様は独りじゃないよ。葵屋のみんなもいるよ。私だって……。だから、帰ろう蒼紫様」
 私は蒼紫様から離れて、手を差し伸べた。
「蒼紫様のこと、迎えにきたんだよ」
 涙が止まらないまま、私はにっこり笑った。

 蒼紫様は私の手をとって。
 ほんの少しだったけど。
 
 笑って、くれたんだ――


 蒼紫様の笑顔は、私の宝物だから。
 いつか蒼紫様が、にっこり笑ってくれる日がくるといいな。
 その時、私は誰よりも蒼紫様の近くにいたい。


 大好きな蒼紫様へ。
 いっぱいお願いがあるよ。

 苦しまないで。
 笑って。
 そばにいて。


 大好きだよ。ずっとずっと。いつまでも……。 



☆あとがき☆
蒼紫様と操ちゃんの恋物語です。この二人、性格正反対だなぁと改めて思いました^^; 操ちゃんの恋は、薫ちゃんの一途な恋と一緒なのだけれど、ストレートですよね。素直に気持ちを伝える操ちゃんは書いていて気持ちが良かったです。蒼紫様のこと、幼いときからずっと慕ってきた操ちゃん。幸せになってほしいです。そして蒼紫様も。きっとこの人は、操ちゃんにかたくなな心を少しずつ解いてもらいながら、笑顔を取り戻すのかなぁと思っています。

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弥彦と燕の恋物語。縁との一件後、平和な生活に戻り、そして二人の関係は……。弥×燕(ヤヒツバ)


 剣心と縁との戦いも終わり、東京には再び平和が戻り、その年の冬。弥彦は稽古に励み、燕は赤べこで働く、そんな毎日だった。

『きみに伝えられたら』(るろうに剣心 6)

 その日、神谷道場にいたのは、弥彦ただ独りだった。剣心は遠くの町へ買い物へ、薫は出稽古だった。
 氷のように冷たい道場の床。その真ん中に、弥彦は独り正座している。白い息を吐きながら、震える体を必死に抑え、目をつむっている。むき出しの手足は冷え切り、既に赤い。
 コンコン、と、戸を叩く音がした。
「誰だ」
「あの……燕、です……」
 ガラ……と、遠慮がちに戸を開ける燕。
「なんか用か?」
 前を向いたまま、弥彦はそっけなくたずねる。
「妙さんからの差し入れを届けに……。京都から野菜が送られてきたんですって。縁側に置いておいたから……」
 弥彦は、ああ、とだけうなずく。
「……何、してるの?」
 燕は、呆然とたずねた。
「稽古に決まってんだろ」
 怒ったような顔で答える弥彦。その直後弥彦は、こほっこほっと咳をする。
「弥彦君風邪ひいてるの!? 顔も赤いし、熱があるんじゃ――」
「道場に入ってくんなっ!!」
 弥彦は大声で怒鳴った。燕はビクッとする。
「稽古中だ。邪魔すんじゃねぇ」
 そうして弥彦は、再び目をつむった。しんとした道場。しばらくして聞こえてきたのは、燕のすすり泣く声だった。弥彦が驚いて目を開けると、燕は両手を口に当てて泣いていた。ハッとする弥彦。
「つば――」
「ごめんなさい弥彦君!」
 燕は涙声で謝ると、駆け去っていった。
「おい燕――」
 立ち上がり、追いかけようとした弥彦は、二、三歩ふらつくと、その場に倒れた。

「弥彦! どうしたでござる!」
 剣心が帰ってきたのは、そのすぐ後だった。
「……剣心」
 剣心の腕の中で、弥彦は目を覚ます。剣心は、赤い顔で辛そうに息をする弥彦の額に、そっと手を当てた。
「熱いでござるな。かなり熱があるようでござる。お主、ずっとここに座っていたでござるか?」
「……んで、知ってんだ……?」
 はぁはぁと弱々しく息をしながら、不思議そうに聞く弥彦。
「そこで燕殿に会ったでござるよ。お主が熱を出しているようだから、早く帰ってあげてほしいと、それだけ言って帰っていったでござる……」
「……あいつ、泣いてたか?」
「……ああ」
 弥彦は、苦しげに息をもらした。

 ふとんに寝かされた弥彦は、横に座る剣心に、聞かれるままに先程のことを話した。最近、稽古中に薫から、精神面がまだまだだと言われ続けていたこと。だから今日は、朝から道場にこもり、それを鍛えようとしていたこと。けれど、そんなところを誰にも見られたくなかったこと。なのに運悪く燕に見られて……そして燕を泣かせてしまったこと。
「泣かせるつもりなんかなかったんだ……」
 弥彦は、ぽつりとつぶやいた。
「けど……燕に格好悪いところ見られた気がして……。つい怒鳴っちまって……。だからあいつ、泣いちまって……」
「弥彦は、そう思っているのでござるか? 怒鳴ったから、燕殿は泣いたのだと……」
「違うのか?」
 驚く弥彦に、剣心は優しく笑った。けれどその瞳に、少しだけ厳しさをにじませて。
「弥彦。精神を鍛えようとしたことは立派だったでござる。けれど、お主は少し意味を間違えている……。薫殿が言ったことは、我慢強さのことではないでござる。そう、例えば……」
「例えば?」
「無茶な稽古をして拙者や薫殿を心配させるような、馬鹿な真似はしないこととか……」
 弥彦は黙って、剣心の言葉を聞いていた。そうして、燕に想いをはせる――

 泣きながら町を走っていた燕は、ふいに誰かに袖をつかまれた。振り向くと、稽古帰りの薫が、驚いた顔で燕を見ていた。

 甘味処の、赤い長椅子に二人は並んで座る。燕は、薫にごちそうしてもらったあんみつを食べながら、聞かれるままにすべてを話していた。
「辛かったんです私……。熱があって苦しそうな弥彦君を見るのが……。弥彦君に稽古はやめてって言いたくて……。でもその勇気がなくて……。それにきっと、私には弥彦君を止めることなんて出来ません……」
 再び肩を震わせる燕。薫は巾着から布を取り出し、そっと燕の涙をふいてやる。
「聞いて燕ちゃん。確かに、心配してくれた燕ちゃんを怒った弥彦が全部悪いわ。でもね……」
 薫は、冬の空を見上げた。以前、剣心が京都へ行ってしまったときのことを思い出す。
「泣いてるだけじゃ、何も変わらない。大好きな人のそばにいたいなら、女の子だって強くならないとね」
 燕はハッとして、薫を見上げる。
「それに弥彦は、誰よりもあなたの言うことを聞くと思うわよ」
 薫は、くすりと笑った。

 数日後。剣心の言葉に反省したのもつかの間、弥彦はまだ熱も下がりきっていないというのに、稽古をしたいと言い出した。
「弥彦! あなたまだ熱があるんだから、おとなしく寝てなさい!」
「もう平気だって。いつまでも床になんかついてたら、体がなまっちまう」
 薫の言うことなど聞く耳も持たず、弥彦は強引に道場へむかおうとする。
「弥彦。まだ無理でござるよ」
「平気だって言ってんだろ」
 比較的剣心の言うことなら素直に聞く弥彦だったが、今日は違う。よほど稽古をしなければとあせっているらしい。
「……だめっ!」
「へっ?」
 突然弥彦にあびせかけられた声。それは燕の声だった。弥彦たち三人が茶の間で騒いでいる間に、いつの間にか燕が目の前の縁側まで来ていたらしい。
「弥彦君……。剣心さんも薫さんも、そう言ってるよ。それに……それに……」
 薫が、燕を目で応援する。気付いた燕はうなずくと、顔を上げて弥彦を見上げた。
「弥彦君には、いつも元気でいてほしい。こないだも、今日も……ううん、いつだってずっと私はそう思ってる……。だって私、弥彦君が大事なんだもの……!」
 せいいっぱいの勇気を込めて、燕は言った。頬を真っ赤に染めて。
 一瞬の後、弥彦はかあぁと赤くなる。そんな弥彦の肩を、剣心は笑ってポンとたたく。弥彦は、剣心を見つめ返してうなずくと、草履を履いて庭へ下りた。
「こないだは、怒鳴ったりして悪かった。それから……いっつも心配かけて、悪ぃ。それから……」
 弥彦は、一度燕から目をそらし、そして再び燕を見つめた。
「心配してくれて……、あ……ありがとな……」
 返事の代わりに、燕はわっと泣き出してしまった。弥彦は、おどおどしながら、そっと燕の背中に手をまわす。
「泣くなって。俺、今日は、おとなしく寝てるから……」
「弥彦君……」
 燕の涙は、うれし涙に変わっていった。
 そんな二人を、剣心と薫は、ほほえましく見守るのだった。



☆あとがき☆
弥彦と燕の恋物語です。ええとこの二人はまだ子供なので、剣心と薫にフォローしてもらいました。可愛い燕ちゃんを泣かせるなんて弥彦は罪な子ですよ(笑) 
二人の淡い恋は、純粋で健気で大好きですv





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